Tree portraits
これらの樹の肖像は、そのたたずまいと神聖な雰囲 気を持っていると私が感じた樹々の肖像であり、
それぞれの樹の現在の状態が描かれている。
樹は人間よりもずっと寿命が長い。
私は数年前に病気を患ったことをきっかけに時間が有限であることを強く意識するようになった。
同時に、絵描きとしての活動を通してこれまで長年モチーフにしてきた自然に何か寄与できるよう な創作に意識が向くようにもなる。
各肖像には、その正確な位置を示すGPS座標が額に刻印されており、地図アプリを通して樹が 見れたり、実際に訪れることも可能である。 私を含む今の世代が居なくなった後も、次の世代の人達がこの樹の成長を見守ることが出来る。
樹はこの肖像画の時点よりもさらに成長していることを願うが、もしかすると伐採され跡形もなくなっているかもしれない。
いずれにせよ描いた時点との比較が将来出来ることで人間がいかに自然に影響を及ぼしているかを自覚するきっかけになりうる。
Tobusatate
“鳥総立て”は山の神への奉謝する儀式である。
主に神社仏閣の木材として切り倒される樹に対して行われる儀式で、 切り株の中心にその樹の頭頂部から
取った梢を挿し、山の神に樹を使わせてもら うことへの感謝の意を表す。
木片に描かれたTobusatateシリーズはこの日本古来より伝わる儀式から着想を得て生まれた。
切り株の中心から周囲へと万物の源である水が広がり、伐採された樹が新たに神宮 の一部となり再生され、
持続可能な将来へと繋がる。
梢に山の神が宿るイメージを木片に込めた。
Nightfall
静寂と神秘が支配する夜の森
穏やかでありながらも不気味な雰囲気に誘われ
森がまるで異世界のように感じられる瞬間がある。
取材する中で夜の森に囲まれたときに感じる静かな恐怖、それに伴う静謐な内省の時間が好きだ
私は数年前、病を経て、死への恐怖を心から実感することがあった。
暗い森の霊的世界から人間が営む現実世界を望んだような風景を
その狭間に居るような感覚を抱えながら制作している。
そんな恐れと孤独、夜の森が持つ儚い夢幻が凝縮された存在しない風景。
そして闇の恐怖とは反対に 暗い森のなかから垣間見える人の営みの灯り
それは人の心を静かに照らし、内省を促す。
Empathy towards Things
金は富の象徴であるが、それは決して永久のものではない。
様々な経験を通して人の魂はますます豊かになっていく。
絶え間なく流れ続け、形を変えながら風に乗って進み、やがて消えゆく雲のように。
物事に対する共感とは、日本語で「無常」、つまり物事のはかなさを意識すること。
物事が過ぎ去ることへの一過性の穏やかな悲しみ(または切なさ)を受容することで前に進めるのだと思う。
Wandering seasons
四季の移ろい、色彩の衰え、新たな調和へと向かう時の流れは
あらゆる文化において常に、無数の芸術表現のインスピレーションであると同時に、
魂の深い感動の源でもある。
日本人の自然に対する感覚は他国のそれと少し異なるように感じる。
儚いもの、移ろいゆく季節、やがて消えゆくものたち
その「無常」を慈しむ感情を画面に滲ませたい。
Ephemeral moment
日没直後の昼間と夜の狭間。止まることなく変化し続ける空の様子に心奪われる瞬間がある。
その一瞬一瞬を留め置いておきたいけれど叶わず、ただ感嘆し、あっという間に暗くなる。
その刹那的な瞬間とは対照的に、空には星や月、四季といった恒久的なエレメントが混在している。
この世界は恒久的なものと一刹那的なもので構成されており、それは同時に美しく調和している。
その一瞬一瞬を楽しみ、この短い人生を大切にしたい。